あいものかきもの

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フィンガースイッチ考察 #2

まえがきともくじ

注意:#1は読まなくて大丈夫です。時間かかるだけで内容がないので。

 さて、フィンガースイッチ考察#2ということで、前回よりもちょっと理論っぽくなります。前回は書き連ねただけだったし、樹形図だけじゃダメって学校で習ったでしょ!と言われかねなかったので、今回はガッツリ集合と論理を使って理解を深めましょう。

ちなみに、軌道分析表記法はそこまで出てこないので、理解していなくても問題はありません。(実践で結構出てくるわ…ごめん…)

 

追記(9/3):一部誤りを修正しました。公理をひとつ追加し、公理1~3に対する説明を加えました。

 

 

あらすじ

(この記事を最後まで理解できると、以下の文章の意味がわかるようになります。)

A:オカンがな、34-25みたいに軸移動する技の名前を忘れたらしくてね。

B:おー、イースソニックやないかい(…?)。その複雑な感じの軸移動はイーソニちゃうん?

A:でもオカンが言うには、計算したら、
    C_{1} : \left(a_{正}-b_{負}\right)\left(a_{負}-b_{正}\right)= \left(4-2\right)\left(3-5\right) \lt 0
になるって言うんやな。

B:ほな、イーソニちゃうかぁ。イーソニはこの値が正にならなあかんもんね。

A:でオカンが言うには、もう一個計算したら、
    C_{2'} : \left(a_{正}-b_{正}\right)\left(a_{負}-b_{負}\right) = \left(4-5\right)\left(3-2\right) \neq 0
になるって言うんやな。

B:ほな、ソニックでもないかぁ。ソニックはこの値がちょうど0にならなあかんのよ。

A:でオカンが言うには、もう一個計算したら、
    C_{3} : \left(a_{正}-b_{正}\right)\left(a_{負}-b_{負}\right) = \left(4-5\right)\left(3-2\right) \lt 0
になるって言うんやな。

B:ほな、フラッシュソニックやないかい!この値が負になるのはフラソニしかないねん。

A:んでオトンが言うにはな、フェイクトソニックやないか?って言うねん。

B:…いや絶対ちゃうやろ。

 

位遷(Fingerswitch)

 まず、ご存知の方も多いと思いますが、この記事では以下の用語を用います。

・フィンガースイッチ(位遷)…ペンを空間に固定させた状態で、ある軸位から別の軸位へペンを移すこと。

一応フィンガースイッチが標準の名称なのですが、名称がとても長いため、本記事では位遷という単語を用います。(フィンガースイッチと位遷は全く同じ意味です。)

 

 また、前提条件の追加として、今回は全編を通して、2指状態(つまり挟指が2本あるような状態)でかつフィンガークロスではない状態を考えていきます。

その2本にそれぞれ、u側挟指(尺側挟指)とr側挟指(橈側挟指)と名前をつけます。通常では、小指側に近い方がu側、親指側に近い方がr側になります。

さらに今回は位遷(フィンガースイッチ)を考えるため、位遷前の軸位におけるu側/r側挟指と位遷後の軸位におけるu側/r側挟指、合計で4種類の挟指が登場することになります。これらをいちいちこう呼ぶのは面倒なので、新たに以下のような定数を定めます。

   位遷前の軸位におけるu側挟指の指軸数を  a_{正}
   位遷前の軸位におけるr側挟指の指軸数を  a_{負}
   位遷後の軸位におけるu側挟指の指軸数を  b_{正}
   位遷後の軸位におけるr側挟指の指軸数を  b_{負}

それと同時に、その性質により以下の2つの公理を定めます。

   公理1. 定数  a_{正},a_{負},b_{正},b_{負} は全て1以上5以下の自然数である。
   公理2.  \left(a_{正}-b_{正}\right)^{2}+\left(a_{負}-b_{負}\right)^{2} \neq 0 が必ず成り立つ。
   公理3.  a_{正} \gt a_{負} \,,\, b_{正} \gt b_{負} が必ず成り立つ。 

公理1は、これらの定数は指軸と対応していることを意味しています。
公理2は、軸位が移動しない状況は考えないということを意味しています。
公理3は、u側挟指がr側挟指より大きい数字を持つということを意味しています。

 

 例として、[ 34 ]だとu側挟指は4軸、r側挟指は3軸になります。
(軌道分析表記法では必ずr側挟指を先に書くので、それで判定してもいいです。)

また[ 34..W/23..E ]という位遷(フィンガースイッチ)があった場合、
    \left(a_{正},a_{負},b_{正},b_{負}\right)=\left(4,3,3,2\right)
のように表せます。きちんと公理1~3を満たしていますね。
なお、この定数は方位と関係なく決まります。[ 34..E/23..W ]でも同じ値を代入することになります。

 

 さて位遷(フィンガースイッチ)は大きく以下の2種類に分類されます。

・平面位遷…位遷前後0.5回転を平面系と決定する位遷。方位が位遷前後で一致しない。
・円錐位遷…位遷前後0.5回転を円錐系と決定する位遷。方位が位遷前後で一致する。

つまり位遷を含むような技で平面位遷を行うと必ず平面系の技になり、逆に平面系の技の位遷は必ず平面位遷であるということになります。

 例として、
45-23スキップパスの位遷は[ 45..W/23..E ]で方位が位遷前後で一致しないので、平面位遷です。
45-23イースソニックの位遷は[ 45..W/23..W ]で方位が位遷前後で一致するので、円錐位遷です。

では、これら2種類についてさらに細かく見ていきましょう。

 

…の前に、新たに整数定数k,lを導入します。

    k = \left(a_{正}-b_{正}\right)\left(a_{負}-b_{負}\right)
    l = \left(a_{正}-b_{負}\right)\left(a_{負}-b_{正}\right)

この定数を用いた等式,不等式で、位遷の分類を行います。では今度こそ見ていきましょう。

 

平面位遷(Planer Fingerswitch)

 前回でも触れましたが、以下のように用語を決めます。

・方位逆転条件…平面位遷を満たすための軸位の条件(必要条件であり十分条件ではない)。

方位逆転条件は前回の記事では"フィンガースイッチを行う際、U側挟指とD側挟指が両方移行する"と説明されていますが、本記事に沿って正確に説明し直すと"位遷前のu側挟指と位遷後のu側挟指が一致しない、かつ、位遷前のr側挟指と位遷後のr側挟指が一致しない"となります。

この方位逆転条件 P_{0} を式で説明すると、以下のようになります。
    P_{0} : k \neq 0

 

 このような平面位遷のうち、パス群、フラッシュパス群、ピボットパス群それぞれで行われるような位遷とその条件をそれぞれパス位遷(その条件 P_{1} )、フラッシュソニック位遷(その条件 P_{2} )、ピボットパス位遷(その条件 P_{3} )と定めます。

 

パス位遷

 パス位遷であるための条件 P_{1} は以下のようになります。
    P_{1} : l \geq 0
    P_{1} : a_{正} \gt a_{負} \geq b_{正} \gt b_{負} \,または\, b_{正} \gt b_{負} \geq a_{正} \gt a_{負}

公理2より、上と下は同値です。

 

フラパス位遷

 フラパス位遷であるための条件 P_{2} は以下のようになります。
    P_{2} : k \lt 0
    P_{2} : a_{正} \gt b_{正} \gt b_{負} \gt  a_{負} \,または\, b_{正} \gt a_{正} \gt a_{負} \gt  b_{負}

公理2より、上と下は同値です。

 

ピボパス位遷

 ピボパス位遷であるための条件 P_{3} は以下のようになります。
    P_{3} : kl \lt 0
    P_{3} : a_{正} \gt b_{正} \gt a_{負} \gt b_{負} \,または\, b_{正} \gt a_{正} \gt b_{負} \gt a_{負}

公理2より、上と下は同値です。

 

その他

 全てを合わせて考えると、以下が導出されます(多分)

    P_{1} \cap P_{2}=P_{2} \cap P_{3}=P_{3} \cap P_{1}=\varnothing
    P_{0} \cap \overline{P_{1}} \cap \overline{P_{2}} \cap \overline{P_{3}}=\varnothing

前者は「パス位遷、フラパス位遷、ピボパス位遷はどの組み合わせも互いに共通部分を持たない(パス、フラパス、ピボパスは重複しない)」という意味になり、後者は「平面位遷においては、パス位遷、フラパス位遷、ピボパス位遷の3つしかない(平面系でパス、フラパス、ピボパス以外の技は存在しない)」という意味になります。

 

 

円錐位遷(Conical Fingerswitch)

 前回でも触れましたが、以下のように用語を決めます。

・方位維持条件…円錐位遷を満たすための軸位の条件(必要条件であり十分条件ではない)。

方位維持条件は前回の記事では"フィンガースイッチを行う際、U側挟指がD側挟指に移行せず、かつD側挟指がU側狭指に移行しない"と説明されていますが、本記事に沿って正確に説明し直すと"位遷前のu側挟指と位遷後のr側挟指が一致しない、かつ、位遷前のr側挟指と位遷後のu側挟指が一致しない"となります。

この方位維持条件 C_{0} を式で説明すると、以下のようになります。
    C_{0} : l \neq 0

 

 このような円錐位遷のうち、イースソニック群、フラッシュソニック群、ソニック群、ピボットソニック群それぞれで行われるような位遷とその条件をそれぞれイースソニック位遷(その条件 C_{1} )、フラッシュソニック位遷(その条件 C_{2} )、ソニック位遷(その条件 C_{2'} )、ピボットソニック位遷(その条件 C_{3} )と定めます。

 

イーソニ位遷

 イーソニ位遷であるための条件 C_{1} は以下のようになります。
    C_{1} : l \gt 0
    C_{1} : a_{正} \gt a_{負} \gt b_{正} \gt b_{負} \,または\, b_{正} \gt b_{負} \gt a_{正} \gt a_{負}

公理2より、上と下は同値です。

 

フラソニ位遷

 フラソニ位遷であるための条件 C_{2} は以下のようになります。
    C_{2} : k \lt 0
    C_{2} : a_{正} \gt b_{正} \gt b_{負} \gt  a_{負} \,または\, b_{正} \gt a_{正} \gt a_{負} \gt  b_{負}

公理2より、上と下は同値です。

 

ソニック位遷

 ソニック位遷であるための条件 C_{2'} は以下のようになります。
    C_{2'} : k = 0
    C_{2'} : a_{正} = b_{正} \,または\, a_{負} =  b_{負}

公理2より、上と下は同値です。

 

ピボソニ位遷

 ピボソニ位遷であるための条件 C_{3} は以下のようになります。
    C_{3} : kl \lt 0
    C_{3} : a_{正} \gt b_{正} \gt a_{負} \gt b_{負} \,または\, b_{正} \gt a_{正} \gt b_{負} \gt a_{負}

公理2より、上と下は同値です。

 

その他

 全てを合わせて考えると、以下が導出されます(多分)

    C_{1} \cap C_{2}=C_{1} \cap C_{2'}=C_{1} \cap C_{3}=...=C_{2'} \cap C_{3}=\varnothing
    C_{0} \cap \overline{P_{1}} \cap \overline{P_{2}} \cap \overline{P_{2 '}} \cap \overline{P_{3}}=\varnothing

前者は「イーソニ位遷、フラソニ位遷、ソニック位遷、ピボソニ位遷はどの組み合わせも互いに共通部分を持たない(イーソニ、フラソニ、ソニ、ピボソニは重複しない)」という意味になり、後者は「平面位遷においては、イーソニ位遷、フラソニ位遷、ソニック位遷、ピボソニ位遷の4つしかない(平面系でイーソニ、ソニック、フラソニ、ピボソニ以外の技は存在しない)」という意味になります。

 

実践

以上の条件を用いると、技の分類が形式的にできるようになります。

復習(式まとめ)

・整数定数k,kを以下のように定める。
    k = \left(a_{正}-b_{正}\right)\left(a_{負}-b_{負}\right)
    l = \left(a_{正}-b_{負}\right)\left(a_{負}-b_{正}\right)

・平面位遷…位遷前後0.5回転を平面系と決定する位遷。方位が位遷前後で一致しない。
 方位逆転条件は以下の通り。
    P_{0} : k \neq 0

・パス位遷の条件( P_{1} )、フラッシュソニック位遷の条件( P_{2} )、ピボットパス位遷の条件( P_{3} )は以下の通り。
    P_{1} : l \geq 0
    P_{2} : k \lt 0
    P_{3} : kl \lt 0

・円錐位遷…位遷前後0.5回転を円錐系と決定する位遷。方位が位遷前後で一致する。
 方位維持条件は以下の通り。
    C_{0} : l \neq 0

イースソニック位遷の条件( C_{1} )、フラッシュソニック位遷の条件( C_{2} )、ソニック位遷の条件( C_{2'} )、ピボットソニック位遷の条件( C_{3} )は以下の通り。
    C_{1} : l \gt 0
    C_{2} : k \lt 0
    C_{2'} : k = 0
    C_{3} : kl \lt 0

 

具体例

3-パスリバの位遷[ 23..E/34..W ]は、方位が位遷前後で一致しないため平面位遷であり、
    \left(a_{正},a_{負},b_{正},b_{負}\right) = \left(3,2,4,3\right)
    l = \left(3-3\right) \left(2-4\right) = 0 \geq 0
    k = \left(3-4\right) \left(2-3\right) = 1 \nless 0
    kl = 0 \nless 0
これは条件 P_{1} を満たすため、パス位遷である。

 

34スキップパスの位遷[ 45..W/23..E ]は、方位が位遷前後で一致しないため平面位遷であり、
    \left(a_{正},a_{負},b_{正},b_{負}\right)=\left(5,4,3,2\right)
    l = \left(5-2\right)\left(4-3\right)=3 \geq 0
    k = \left(5-3\right) \left(4-2\right) = 4 \nless 0
    kl = 12 \nless 0
これは条件 P_{1} を満たすため、パス位遷である。

 

34-25-34フラッシュパスの1つ目の位遷[ 34..W/25(4-3)..E ]は、方位が位遷前後で一致しないため平面位遷であり、
    \left(a_{正},a_{負},b_{正},b_{負}\right) = \left(4,3,5,2\right)
    l = \left(4-2\right) \left(3-5\right) = -4 \ngeq 0
    k = \left(4-5\right) \left(3-2\right) = -1 \lt 0
    kl = 4 \nless 0
これは条件 P_{2} を満たすため、フラパス位遷である。

34-25-34フラッシュパスの2つ目の位遷[ 25(3-4)..W/34..E ]は、方位が位遷前後で一致しないため平面位遷であり、
    \left(a_{正},a_{負},b_{正},b_{負}\right) = \left(5,2,4,3\right)
    l = \left(5-3\right) \left(2-4\right) = -4 \ngeq 0
    k = \left(5-4\right) \left(2-3\right) = -1 \lt 0
    kl = 4 \nless 0
これは条件 P_{2} を満たすため、フラパス位遷である。

 

35-24Beigeパスの位遷[ 35(4-)..E/24(3-)..W ]は、方位が位遷前後で一致しないため平面位遷であり、
    \left(a_{正},a_{負},b_{正},b_{負}\right) = \left(5,3,4,2\right)
    l = \left(5-2\right) \left(3-4\right) = -3 \ngeq 0
    k = \left(5-4\right) \left(3-2\right) = 1 \ nless 0
    kl = -3 \lt 0
これは条件 P_{3} を満たすため、ピボパス位遷である。

 

45-23イースソニックの位遷[ 45..W/23..W ]は、方位が位遷前後で一致するため円錐位遷であり、
    \left(a_{正},a_{負},b_{正},b_{負}\right) = \left(5,4,3,2\right)
    l = \left(5-2\right) \left(4-3\right) = 3 \geq 0
    k = \left(5-3\right) \left(4-2\right) = 4 \nless 0
    kl = 12 \nless 0
これは条件 C_{1} を満たすため、パス位遷である。

 

34-25-34フラッシュソニックの1つ目の位遷[ 34..E/25(3-4)..E ]は、方位が位遷前後で一致するため円錐位遷であり、
    \left(a_{正},a_{負},b_{正},b_{負}\right) = \left(4,3,5,2\right)
    l = \left(4-2\right) \left(3-5\right) = -4 \ngeq 0
    k = \left(4-5\right) \left(3-2\right) = -1 \lt 0
    kl = 4 \nless 0
これは条件 C_{2} を満たすため、フラソニ位遷である。

34-25-34フラッシュパスの2つ目の位遷[ 25(3-4)..W/34..E ]は、方位が位遷前後で一致しないため平面位遷であり、
    \left(a_{正},a_{負},b_{正},b_{負}\right) = \left(5,2,4,3\right)
    l = \left(5-3\right) \left(2-4\right) = -4 \ngeq 0
    k = \left(5-4\right) \left(2-3\right) = -1 \lt 0
    kl = 4 \nless 0
これは条件 P_{2} を満たすため、フラパス位遷である。